児童ポルノ

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児童ポルノ(じどうぽるの、: child pornography、: 儿童色情制品〔児童色情制品〕)とは、児童被写体としたポルノのことである。日本においては、児童福祉法児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律などで定義するところの児童、すなわち18歳に満たない者を被写体としたポルノのことである。形式としては写真や動画像であり、媒体は書籍雑誌ビデオテープDVDなどを用いたものの他に、ウェブサイトで公開されているものもあり、そちらは特に児童ポルノサイトという。誤解されがちだが、児童ポルノの対象は、女児のみならず、男児も含まれる。男児に性欲を覚える異常性愛者も多く、事実、全世界で男児が被写体とされ、その後殺害されるという事態がかなり多く起きており、女児だけの問題ではないからだ。実際、日本でも、男児ポルノを所持している男が逮捕されている。

定義[編集]

国際的な観点でみた場合、児童ポルノとは何かという定義は難しい問題である。ひとつには被写体の年齢の問題があり、もうひとつにはポルノの範囲の問題がある。

前者については多くの国では18歳未満を対象としているが、歴史的理由からこれとは異なる年齢を基準として採用している国も見られる。後者については、現実の的な行為を行うものについては疑いないとして、単に姿態をとらせるだけのヌード写真児童エロチカの一部)や、あるいは姿態をとらせていないヌーディズムの写真、芸術に属するものなどの扱いが分かれる。また、疑似児童ポルノとも呼ばれる、児童に見える成人によるもの、合成写真や写実的なコンピュータグラフィックスによるものについての扱いが分かれる。さらに、児童に見えない成人が児童の扮装をしているものやアニメなどの現実の児童との対応がないことが明らかなものや文章表現を対象とする国も少数ながら存在する。なお、ポルノ全般を非合法としているために児童ポルノについて格段の定義を置かない国もある。

国際連合では、児童の権利に関する条約の選択議定書として児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(略称: 児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書)を採択している。その第2条 (c) で、『「児童ポルノ」とは、現実の若しくは疑似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう。』と定めている。なお、日本国もこの選択議定書を締結し発効しており、条約に定められた法整備を行う義務を負っている。このような国連レベルでの取り組みやEUなど地域レベルでのより拘束力の強い条約によって、前述の対象年齢のばらつきは、従来、18歳より低い年齢を上限としていたものについては18歳未満を一律対象とする方向で国際的調和がすすめられている段階である。

日本国の法律では、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(略称: 児童買春・児童ポルノ処罰法)(平成11年法律第52号)の第2条第3項に定めがあり、特に次のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものが禁止されている。

  1. 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
  2. 他人が児童の性器等(性器肛門又は乳首)を触る行為又は児童が他人の性器等(性器、肛門又は乳首)を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
  3. 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

ただし、平成18年現在、以上の定義は、実在の児童を描写したものに限定されると、法務省は回答している。本法があくまでも「被害児童の人権保護」を本旨としているからである。このため、架空の児童を扱ったポルノ作品(絵画・イラスト・漫画・ゲーム等)に関しては、本法の規制対象とならない。

経緯と動向[編集]

児童ポルノは、児童に対する重大な人権侵害であるとして世界的な法的規制がなされている。

日本ではかつては児童ポルノに対する規制が比較的緩やかであった。すなわち、撮影行為のうち一部が児童福祉法や強制わいせつ罪、強姦罪、あるいは淫行条例の対象となり、また表現内容によってその販売などがわいせつ物頒布罪に問われるのみ、といった具合であった。実務においては、ある時期までは性器の写真が問題とされず、またそれ以降においても写真の修正によって商業的に流通していた。

しかし、1996年ストックホルムで開催された児童の商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム会議)において、日本は児童に対する性的搾取の規制を怠っていると非難を受けた(第2回会議は2001年に横浜で開催された。通称横浜会議)。これをきっかけに法改正が行われたが、その一環として制定された児童買春・児童ポルノ処罰法によって児童ポルノが厳しく規制される事になった。同法では児童を「18歳に満たない者」と定義した上で、性交等に係る児童を描写した写真等を児童ポルノと定義した。児童ポルノを製造(撮影と複製)、頒布、販売、賃貸、または公然と陳列すると同法により処罰され、これにはその目的による所持や輸出入も含まれる。さらに、児童ポルノは関税定率法によっても輸入禁制品とされたため、その輸入は関税法によって予備罪も含めて罰せられることになる。また、前述の選択議定書の義務を果たすため、2004年の児童買春・児童ポルノ処罰法改正では児童ポルノの提供行為が新たに処罰対象とされた。なお、「姿態をとらせ」ることがない盗撮行為による児童ポルノ製造については、頒布、販売、賃貸、公然陳列や提供の目的がある場合は児童買春・児童ポルノ処罰法の対象であるとされるが、自己所有のみを目的とする場合は軽犯罪法違反や迷惑防止条例違反に問われるに留まる。[1]

既に述べた通り、過去の規制が緩やかであったため納本制度によって国立国会図書館に児童ポルノとみなされる書物が多数収蔵されている。国立国会図書館法第8章が収蔵資料の閲覧制限を想定しない「一般公衆及び公立その他の図書館に対する奉仕」を定めていることもあり、児童買春・児童ポルノ処罰法の施行から暫くは同図書館での該当書物の閲覧が可能であった。当然のことながらこれを問題視する声があがり、児童ポルノの提供一般を処罰対象とした改正児童ポルノ処罰法が2004年7月に施行されたのち法務省から利用提供の違法性を指摘されるに至って、同図書館は2005年7月から閲覧制限を開始した[2][3]。これまでの国会図書館における閲覧制限はわいせつ物頒布罪による有罪確定や名誉毀損裁判における出版差し止めの確定をもって行っていたためこれに準ずる扱いを検討した。これは、図書館というものが「知る自由」の保障を第一の目的として自主規制を行わないべきであるとされてきたためである[4]。しかし、提供について有罪が確定した児童ポルノ図書の情報の網羅的・継続的入手に困難があることや、摘発事例の有無に関わらず対応することを法務省から求められたため、該当性判断は法令や入手できた判例をもとに館独自に行うこととなった。当初は閲覧請求に対して正当目的であるかどうか審査を行う制限措置であったが、2006年4月1日からは特例内規を設けて完全な閲覧禁止措置とした。写真集など118点、雑誌2タイトルが対象とされているという[5]

日本における境界領域[編集]

児童ポルノ処罰法については、性欲を興奮させ又は刺激するもの、という一文について、定義が曖昧で規制が大きくなりかねない、といった懸念が施行当時から存在した。よって、法律施行直後は各グラビア雑誌において、18歳未満を使わないといった事態が起きた。 しかし、2005年度においては、一般書店に流通しているアイドルのグラビア雑誌や写真集等においては、法律施行前と同等の肌の露出を含む写真や動画の流通が容認されているようである。具体的に言えば、18歳未満の

  • ヌード写真
  • 乳首 (女子)が見える写真
  • AV出演

といったものが摘発対象とされる一方で、

  • ビキニを含む水着
  • ブルマー等の体操着
  • 乳房の間の肌
  • バスタオルをまとった姿
  • 下着姿

といったものを含みつつ摘発とされずに流通しているものが少なからず存在している。このため、児童ポルノ処罰法以前より、わいせつ物頒布罪、児童福祉法、青少年条例等を根拠に未成年の性行為の撮影や、その写真・映像の流通はそれ以前から違法性を認識されており、児童ポルノ処罰法はそれらに加えて少年・少女ヌード写真集ないしビデオの流通を新たに禁止したと理解するむきは多い。ただし、法律では前述のように「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を児童ポルノの定義に含めているため、上にあげたような摘発対象と認識されていないものと肌の露出の度合は変わらなくとも、具体的内容によって摘発対象となる可能性はある。

なお、わいせつ物頒布罪、公然わいせつ罪、児童福祉法、青少年条例などの従来の法律の適用は当然のことながら無くなったわけではなく、状況に応じて併合罪が適用されたり観念的競合牽連犯が適用されたりする。

単純所持の禁止について[編集]

現在の日本の法律では児童ポルノの製作者は罪に科すことができるが、単純所持(「持っているだけ」という状態)の者は罪にならない。しかし、奈良県では13歳未満の児童を被写体とする児童ポルノ(児童ポルノ処罰法における児童ポルノとの混同を避けるべく「子どもポルノ」と定義されている)の単純所持を禁止する「子どもを犯罪の被害から守る条例」が2005年6月に議会に諮られ成立し、7月1日に公布された。条例自体は同日施行であったが、子どもポルノ所持の禁止については猶予期間をおいて10月1日に施行された。罰則は30万円以下の罰金拘留科料。初適用は、既に摘発された児童ポルノの組織的販売の買い手についての11月1日の家宅捜索で発見されたものについてであり、書類送検後、12月19日に罰金5万円の略式命令で確定した。

単純所持の禁止の問題点[編集]

昨今、ITの普及に伴ない、ウィルス等によってパソコン内のドライブに画像を ダウンロードさせるということも可能となっている。それゆえ、単純所持を処罰すると このようなケースまで処罰し、性犯罪者の汚名を一生負わせることになる。例え、 刑罰が軽くても、性犯罪の汚名を着せるという点で、その社会的に抹殺するに等しい。 これだけの重い罪を、単純所持という形式で処罰することには危険が伴なう。今後、 IT技術の普及に伴ない、この危険は、ますます高まっていく。ウィルス対策ソフトも 普及しているが、常にウィルスに対応しているわけではないので、冤罪は不可避的に 発生する。 また、同じく児童といっても、成年に近い児童から、小学生のように明らかに成年とは 違う容姿をもっている児童まで幅広く存在する。後者の方が違法性が高いのは明らかである。 逆に前者は、成人と区別が困難であるケースも多い。そこで、単純所持を処罰するに しても、違法性が高く、また一般人が違法な画像であると認識しやすいものに 限定するべきとの指摘がある。具体的には、小学生以下のものは単純所持を処罰し、 それ以外は、販売等を処罰するといった案がある。(「サイバー犯罪とその問題点」より引用)

海外での状況[編集]

アメリカ合衆国において連邦捜査局インターネットの児童ポルノの摘発に乗り出し、複数の作戦を決行している。その作戦のコードネームとその概要を記す。

イノセント・イメージス
アメリカ・オンラインを通じ違法行為の調査を進めた連邦捜査局は2年間の捜査活動を経て、1995年9月13日に容疑者12名を逮捕。100件以上の家宅捜索を実施。1997年4月時点で91名を逮捕し、83件の重罪の有罪判決が下された。これはFBIが1つのオンラインサービスの捜査を全国規模で実施した初の例であった。
オペレーション・キャンディマン
FBIのおとり捜査官が児童ポルノに関わる3つのEグループを特定。2001年1月から一斉摘発を開始。2002年7月時点で100名以上の逮捕を報告。

2002年8月には米国と西欧諸国の捜査当局が連合し、国際的な児童ポルノリングの組織を摘発。20名を逮捕。この事件における被害者は容疑者らの子供も多く、世界中にその映像は配信されていた。

規制に関する問題は思考の自由を奪うという問題と密接に関連しており、2002年にはアメリカ合衆国でも「18歳未満の子供のヌードのように見える画像」を禁止する連邦法は違憲であるという判決が出た。ただし、その2週間後この判決に臆することなく「児童のわいせつ物およびポルノ防止法」(COPPA)案を提出し「未成年が性的行為を行っている画像と事実上見分けがつかないコンピューター画像」が司法長官を中心とした働きかけにより2002年6月下院で可決された。

2003年にはザ・フーのギタリストであるピート・タウンゼントが児童ポルノのサイトに接続したとして性犯罪者リストに登録されてしまったが、彼は幼い頃虐待を受けておりその著書のための下調べという事情もあった。しかしそれであっても逮捕された。児童ポルノを見たからといって児童に性的虐待をするわけではないのだが、「児童ポルノを見た奴は児童に実際に性的虐待をするに決まっている」というような考えが多勢を占めている。児童ポルノが児童のレイプの一因となるというのは比較的広く支持されている意見だが、全ての児童のレイプの原因は児童ポルノであると断定することはできない。

脚注[編集]

  1. 『「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」について』島戸 純、警察学論集57-08
  2. 朝日新聞朝刊 2005年7月17日
  3. 読売新聞 2005年9月6日
  4. 図書館の自由に関する宣言 日本図書館協会、1979年5月30日
  5. 朝日新聞東京夕刊 2006年4月1日

参考文献[編集]

  • 『性と暴力のアメリカ理念先行国家の矛盾と苦悶』(鈴木透、2006)ISBN 4-12-101863-X
  • 『9人の児童性虐待者NOT MONSTERS』(パメラ・D・シュルツ、2005、翻訳2006)ISBN 4-89500-092-3

関連項目[編集]

外部リンク[編集]